東京高等裁判所 昭和37年(う)1288号 判決
被告人 長沼計司
〔抄 録〕
原判示犯罪事実(原判決は起訴状記載の公訴事実を引用した)は原判決挙示の証拠を総合すれば優にこれを認めることができる。所論は被告人が打電した相手方は、選挙事務所にあつた各地区選挙対策委員名簿(押収にかかる地区総合選対綴二冊に綴られたもの)中の選挙対策委員に限られたものであつて、一般の有権者は含まれていない。被告人はこれら選挙対策委員に対し候補者中島が苦戦している旨終盤の情勢を連絡周知せしめ、選挙対策委員としての自覚と奮起を促し、これを激励する趣旨を以て打電したものであるから、選挙事務所と選挙対策委員との間の、いわゆる選挙運動者相互間の内部的事務連絡であつて、有権者に対し投票を依頼するというが如き、選挙運動のための打電ではないと主張するけれども、被告人が打電した相手方三百八十四名の氏名が記載せられている託送電報四十九枚(当裁判所昭和三七年押第八一八号の三)を、所論の地区総合選対綴二冊(同号の五二)に綴られている各地区選挙対策委員名簿と彼此対照すれば、右三百八十四名中泰雄太郎外六十名の氏名は右各地区選挙対策委員名簿には記載せられていないことが明らかであるから、被告人が打電した相手方三百八十四名が右名簿記載の選挙対策委員に限られていたものとは認められない。しかのみならず原判決挙示の前示証拠なかんずく、和地邦雄の検察官に対する供述調書、被告人の司法警察員に対する昭和三十五年十一月二十二日付、同月二十六日付(三通)及び検察官に対する各供述調書の記載に徴すれば、被告人は原判示選挙に当り中島候補の選挙事務所において、庶務、企画等の事務をとつていたところ、投票期日が近づくに従い、同候補の形勢が思わしくなく、選挙事務所内にても誰いうとなく電報を打たなくてはならないという声が起つたので、被告人も投票依頼等のため電報を打つことを決意し、同年十一月十七日頃予め和地邦雄に依頼して、阿南町附近の選挙人を、選挙対策委員会名簿、推薦人名簿、開発連盟の名簿等より拾い上げ罫紙に記載してもらつた名簿につき、被告人自ら不用の者、重複した者等を抹消し、最終的に三百八十四名となし、その電文も相手方に投票は勿論、投票取纒を依頼する趣旨を以て「ナカジマクセンヨロシクタノム」と定め、これを同夜原判示の如く打電方依頼し、以て飯田電報電話局係員を介し、情を知らない原判示温田局ほか九局の係員をして右電文を内容とする電報(電報送達紙)三百八十四通を作成し、これを各名宛人に配達せしめたことを認めることができる。しかして本件電報はその記載内容のみならず、これが配達せられた日時、場所等に照らしても、被告人の有する前記の意思すなわち中島候補に当選を得しめるため、その支持、応援方を求める趣旨であることを看取するに難くないところ、公職選挙法第百四十二条は、公職の選挙において無用の経費を省き選挙を最も適正且つ公平ならしめる目的を以て選挙運動のためにする文書図画の頒布に関して制限を加え、同条の各号に規定する通常葉書の外は頒布することを禁止するのであつて、同条にいわゆる選挙運動のために使用する文書とは、必ずしも犯人自身が作成又は頒布した文書たることを要せず、いやしくも特定候補者に当選を得しめる目的を有し、かかる意思が文書に記載せられ相手方をして了知せしめる方法をとつた場合は、右文書というに欠くるところがないと認められるので、被告人が打電方依頼したため、係員によつて作成、配達せられた本件電報も右法条所定の文書に該当するものといわなければならない(昭和一五年六月一七日大審院判決、判例集一九巻三七六頁参照)。然らば所論の本件電報は選挙運動者相互間の事務連絡とか、本件の電文は投票依頼等、選挙運動のためにする趣旨には解せられないとか、電報は選挙運動のために使用する文書には該当しない旨の主張は採用することはできない。
所論は、また、公職選挙法第百四十二条の文書図画の頒布とは不特定多数人に配布する目的を以てする場合に限られるところ、被告人は中島候補の選挙対策委員の地位にある特定の選挙運動者に限つて打電したものであるから、右法条の頒布をした場合に該当しないと主張するけれども、被告人が打電した相手方三百八十四名が総て選挙事務所備付の選挙対策委員名簿記載の者に限られていたものと認められないこと前認定の如くであるのみならず、仮りに打電の相手方が所論の如く特定していたとしても、右法条にいわゆる頒布とは多数人に配布するものであつて、その多数人が不特定たることは必要としないものと解するから(前示大審院判決並びに東京高等裁判所昭和二九年四月一三日判決、高裁判例集七巻三号三八五頁の各趣旨参照)、本件電報が三百八十四通の多数に達する以上、被告人の本件所為は同条所定の文書を頒布した場合に該当するものといわなければならない。
然らば被告人の本件所為は選挙運動のために使用する法定外の文書を頒布した場合に該当し公職選挙法第二百四十三条第三号を以て処罰を免れることはできない。
(三宅 東 井波)